オンラインピアノレッスンにおける重要なポイント
昨今,新型コロナウイルスにより多くの事業者,あるいは個人が影響を受けていることと思います.ピアノ学習者やピアノ教師の方々におかれましても例外ではないことでしょう.多くの方がビデオ通話などを用いたオンラインレッスンにシフトしているとお聞きします.
そこで本記事では遠隔レッスン支援を長年? 研究してきた筆者がオンラインレッスンを実施する上でのポイントをご紹介していきます.
筆者について
情報系大学大学院の博士(後期)課程にて音楽情報学を研究しております.学部時代より「いかにして遠隔ピアノレッスンを対面指導のように効率良く実施できるか」について研究してきました.(それなりに)真面目にピアノの演奏もしてきたので,教師・生徒の両視点から記事が書けるかと思います.
遠隔レッスンのメリット・デメリット
はじめに,遠隔レッスンのメリットをおさらいしてみましょう.これは言わずもがなですが,生徒・教師ともに家にいながらレッスンできることですね.移動時間がないためとても楽です.直接顔を合わせないため,このような非常事態においても気軽にレッスンできます.(スッピンやパジャマ姿でもレッスンが受けられます)
では,デメリットはといいますと「同室感の欠如」これに尽きます.同室感とは「あたかも同じ部屋にいるように錯覚する感覚」と定義しています.遠隔環境ではこの同室感が欠如するために円滑なコミュニケーションができず,煩わしいやりとりの発生が起こりえます.
先ほど同室感について「あたかも同じ部屋にいるように錯覚する感覚」と説明しました.これは例えば,デートの時にあなたが綺麗なお店を見つけて「あれ可愛い!ちょっとみてよ」と彼氏に言ったとします.もちろん彼氏はあなたが指差したモノをみて「そうだね」などと反応するでしょう.当たり前の動作ですよね.
しかし,これが遠隔環境だとこのように円滑なコミュニケーションはとれません.なぜなら,彼氏はあなたが指差したモノも方向もわからなければ,「あれ」という言葉が何を指しているのかもわからないからです.これが遠隔における同室感の欠如なのです.
モノやそれに対する注意を共有することがコミュニケーションにおいては非常に重要です.つまり,オンラインレッスンにおいても,足りない同室感を補うことを心がけることが重要なのです.
円滑なオンラインレッスンのために必要なこと
同室感をもたらして,円滑にオンラインレッスンを行うために必要なことを以下にまとめました.SkypeやZoomなどの使用を想定した上で記載しています.なお,カメラは固定式のものよりも簡単に動かせるタイプの方が良いです.
- 楽譜上に何か指摘をするときは,カメラで楽譜を写すこと
これは先ほどの例のように,指差した箇所が一目でわかるようにするためです.楽譜を写していないと「ここの小節が…」と指示語で言われても,難しいですよね.「78小節目から」とピンポイントで言えば伝わりますが,やはり指を差して言った方がお互いの意図が一瞬で伝わります.このお互いの意図の共有速度が,円滑なコミュニケーションには重要なのです(ちなみに,このような意図や態度の共有を共同注視といいます.気になる方は調べてみてください).
この際,楽譜全体のみを写すようにすると相手はよりわかりやすいでしょう.
過去の研究・実験の結果,楽譜への書き込みがわかるくらいの距離で写すと,意図の伝達が最もスムーズでした.
- 通常時に手元を写す際は鍵盤を広く写すこと
演奏時はカメラで演奏中の手元や姿勢を写していることでしょう.この際,広く全体を写すことがポイントです.細かな動きを見たいからと常にアップで写してしまうと距離感が掴みづらくなります.特に演奏が中断して,弾き直した場合などは,広く写している方がわかりやすいです(過去の研究の結果では,レッスンでは特に弾き直す機会が多く,そのような場合,全体を広く写している映像が最も効果的でした).
つまり,いつも人間が見ている視点くらいの広さの画角をカバーするのがベストです.上よりの視点だとなお指の動きが見やすいです.
おわりに
オンラインレッスンにおける重要な点を,過去の研究成果をもとにまとめてみました.要は,対面環境に近づけるにはどうすれば良いか?ということを念頭に工夫してみるとわかりやすいかもしれません.
その他に気を付ける点としては,部屋を明るくしておかないとWebカメラの画質が悪くなりがち(最近のカメラは自動で露光調整してくれるのがアダになる)なことですかね.
また,音声通話を用いる以上,ある程度の音質の劣化などはどうにもならないです.繊細な音質を気にするレッスンをしたい場合は,リアルタイムのレッスンでなく,ビデオカメラで撮影した高画質高音質の動画でやり取りするという手段もあります.
手軽さというオンラインレッスンだけのメリットも非常に大きいものです.状況によるオンライン・オフラインの使い分けがとても大事であると思います.
ご興味があれば,私の遠隔レッスン研究の論文もご覧ください.